座禅と聞くと、肩や背中を木の棒で「バシッ」と叩かれる光景をイメージする方も多いのではないでしょうか。
この肩や背中を叩く木の棒のことを『警策』と呼び、臨済宗では『けいさく』、曹洞宗では『きょうさく』と読みます。
警策は、一見すると痛そうで苦痛なものに見えますが、実は座禅において重要な役割を果たしています。
しかし、警策で叩く理由や効果は、一般にはあまり知られていません。
そこで、この記事では警策を使う理由や効果などについて詳しく解説します。
警策とは?
警策の語源と使用目的
警策は、持ち手は円柱状で、先端に向かって板状になる1m程度の木の棒で、『警覚策励』を略して警策と呼んでいます。
『警覚』の意味は、「気を引き締めて注意しながら目を覚ましていること」
『策 励』の意味は「奮起するように大いに励ますこと」
つまり警策は、『座禅中の眠気を払い、激励を与える』ための棒を意味します。
そのため警策は、罰を与えるためのものではなく、座禅中に眠気に負けたり、心が散漫になったりした者に対して、心身を覚醒させ集中力を高めるとともに、凝り固まった体に刺激を与え、心身をリセットするために使います。
禅宗における警策の位置付け
禅宗において、警策は、『文殊菩薩』の手の代わりであると考えられています。
つまり、警策は文殊菩薩から預かったものであり、警策を使うということは、座禅の修行が順調に進むようにと文殊菩薩からの激励という意味が含まれています。
そのため、警策で叩く側は『警策を与える』、叩かれる側は『警策をいただく』と表現し、警策を使う場合は、両者ともに合掌し頭を下げます。
警策の受けるときの作法
座禅中に眠気に襲われたり、心が落ち着かず集中できないときは、警策で肩や背中を打ってもらいましょう。
ここでは禅宗における警策の位置付けも踏まえ、警策をいただく(叩かれる)際の一般的な作法を解説します。
- 警策を持った僧侶(直道 )が近づいてきたら合掌します。(これは警策を受けたいという合図であり、合掌しなければ直道は通り過ぎ、叩かれることはありません)
- 直道が正面に来れば、合掌したままお互いに一礼。
- 警策を受ける姿勢を作るために、両手を脇に抱え体を前傾させる。
- 直道が軽く肩を叩いて警策を打つ位置を合わせるので、体の力を抜くとともに、警策が耳などに当たらないように、頭を左側に傾けます。
- 右肩に2回警策を受ければ、次は左肩に2回受けるので、頭を反対(右側)に傾け警策を待ちます。
- 警策を受け終われば、感謝の意を表してお互いに一礼。直道が離れたら、元の姿勢に戻ります。
警策の歴史
今では座禅と言えば、木の棒で叩かれる姿をイメージするほど認知されている警策ですが、禅宗が日本に伝わった鎌倉時代は存在せず、江戸時代になってから登場したと考えられており、案外その歴史は浅いと言われています。
また、警策を打つ文化がどのようにして始まったか、どこのお寺で使い始めたのか、などはわかっておらず、実は警策の起源は明らかになっていません。
なお、ある説では、江戸前期に中国から来日した隠元隆琦が警策の文化を日本に伝えたとされていますが、明確な根拠はありません。
※隠元隆琦
中国の禅宗の僧侶で黄檗宗の開祖となった人物。
徳川4代将軍である家綱から京都の宇治の土地を譲り受け、大本山萬福寺を開創。日本にインゲン豆、煎茶、西瓜、蓮根などを伝えた人物として知られている。
警策の注意点と問題点
警策は、座禅で凝り固まった心身をリセットし、集中力を高める効果があり、座禅において一定の役割を果たしています。
そのため、正しく使えばポジティブな効果が得られますが、力加減などを誤ると逆効果になる場合もあります。
また、現代社会においては、警策で叩く行為自体に疑問が投げかけられており、警策を廃止したお寺もあります。
ここでは、警策を使う場合の注意点や問題点について解説します。
警策の注意点
警策への正しい理解
警策は、座禅中に眠気や心の乱れを感じたときなどに打ってもらうものであり、強制されるものではありません。
警策をいただく人は、警策が必要になれば手を合わせて打つ人に合図し、警策を与える人は、その合図を確認して適切な力加減で警策を打ちます。
初めて座禅会に参加する方の中には、警策への正しい理解が十分ではなく、「座禅会に行くと絶対に木の棒で叩かれる」、「警策でたくさん叩かれた方が効果が高まりそう」といった誤解している方もいます。
座禅に集中しその効果を高めるためにも、警策を使う目的を正しく理解するとともに、警策をいただく際の作法などについてもしっかり学んでいきましょう。
力加減とタイミング
警策は、座禅中の集中力を高めるためのものであり、痛みや苦痛を与えるものではありません。それゆえに警策を与える側は適切な力加減やタイミングが重要です。
打つ力が強すぎると肉体的な苦痛や怪我を引き起こし、あまりに弱すぎると効果がなくなります。
またタイミングも重要で、受ける側の呼吸や姿勢に合わせて打つ必要があります。また、受ける側も警策をいただく姿勢や心構えが重要です。
なお、初めて座禅に取り組む人の中には、警策で叩かれることに恐怖感を抱く人もいるので、事前に十分な説明を行いましょう。
現代社会における警策の問題点
警策は、座禅の助けとなる道具ですが、警策で叩く行為は、現代社会では受け入れられにくい側面もあります。
特に、子どもに警策を打つ場合は、教育や心理学的に問題があると指摘されることもあり、子どもの自尊心や自己肯定感を低下させたり、警策を罰ゲームの道具のように使うことで暴力性を高めたりする恐れがあります。
また、日本以外の国や地域では、警策の文化や伝統が理解されていない場合が多いため、抵抗感が強く叩く行為に批判的である可能性も考えられます。
このように、警策は座禅において大切な役割がありますが、同時に問題点も抱えており、警策を廃止にしたお寺もあります。
現代社会においては、警策を打つ者も受ける者も、その注意点や問題点について深く学び、適切に用いることが求められています。
まとめ
この記事では、座禅中に警策を使う目的、受け方および歴史などについて解説しました。
警策は眠気をはらい集中力を高めるとともに、凝り固まった体に刺激を与え、心身をリセットするために使います。
また、警策は座禅が円滑に進むようにという「文殊菩薩による激励」という意味を持っており、決して暴力や罰を与えるためのものではありません。
座禅に興味のある方、これから座禅を始める方は、警策の意味と目的を正しく理解して、ぜひ座禅に取り組んでみてください。
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