禅宗には、さまざまな宗派があることをご存知ですか?
日本の禅宗には、「曹洞宗」、「臨済宗」、「黄檗宗」の3大宗派があり、宗派によって座禅の作法などにも違いがあります。
この記事では、日本で多くの信仰者を持つ曹洞宗と臨済宗について、その歴史や座禅観の違いについて、図解を使ってわかりやすく解説します。
座禅を重んじる禅宗とは
座禅を修行方法にしている宗派は、仏教の一宗派である「禅宗」です。
禅宗は一つの宗派ではなく、さらに宗派が分かれており、日本では禅宗の三大宗派として
- 曹洞宗(そうとうしゅう)
- 臨済宗(りんざいしゅう)
- 黄檗宗(おうばくしゅう)
の3つの宗派があります。
特に代表的なのが「曹洞宗」「臨済宗」の2つ。
まずはそれぞれの歴史と特徴を見ていきましょう。
禅宗の歴史
禅宗は、インドから中国に伝わった仏教の一派で、中国では禅 (Chan) と呼ばれました。
日本には鎌倉時代(1192年〜)に中国から伝えられ、「禅」 と呼ばれるようになり、禅宗の各宗派は広く普及していきます。
禅宗は、他の宗教と異なり経典や教理に頼らず、直接心から心へと仏法を伝えることを重視。
そのため、言葉ではなく行動や態度で示すことが多く、独特の文化や芸術を生み出しました。
代表的なものとして、茶道や華道、書道や水墨画などがあります。
なお、禅宗の歴史については以下の記事にまとめているので、詳しく知りたい方は参考にしてください↓
臨済宗の歴史
臨済宗は、中国南宋時代に臨済山で活躍した栄西が日本に伝えた宗派であり、妙心寺や建仁寺などの有名な寺院が数多くあります。
臨済宗は、鎌倉幕府や室町幕府などの武家政権に支持され、公家や文化人にも受け入れられたため、広く普及しました。
また、臨済宗は日本の文化や芸術に多大な影響を与え、代表的なものとしては、枯山水や水墨画、茶の湯(茶道)などがあります。
一方、江戸時代になると臨済宗は衰退し、白隠慧鶴(はくいんえかく)禅師が中興の祖として活躍します。
白隠禅師は、公案禅(こうあんぜん)を洗練させ、自身も多くの公案を作りました。
禅宗における問題のこと。禅問答。
修行僧は指導者から与えられた公案を解く中で悟りを目指す。
そして白隠禅師は、「看話 (かんわ) 禅」と呼ばれる修行法を確立しました。
これは、ただひたすらに坐ることが悟りとする曹洞宗の「只管打坐」や「黙照禅」に対し、坐禅をしながら公案について考えることで、心の迷いを吹き消し、段階的に悟りへと至ろうとする禅の修行法です。
なお、「栄西」や「禅問答(公案)」については、以下の記事にまとめているので、興味のある方は参考にしてください。
曹洞宗の歴史
曹洞宗は、中国南宋時代に曹渓山で活躍した道元禅師が日本に伝えた宗派です。
道元禅師は、当時流行していた臨済宗の「公案禅」に対し、ただひたすら坐ることによって仏性を見出すことができると主張しました。
これを「只管打坐 (しかんたざ) 」や「黙照禅(もくしょうぜん)」と呼びます。
道元禅師は、「正法眼蔵 (しょうぼうげんぞう) 」や「普勧坐禅儀 (ふかんざぜんぎ) 」などの著作を残しましたが、当時その影響力はあまり大きくなく、越前国永平寺(現在の福井県)で布教活動を行いましたが、一時的に曹洞宗は衰退します。
曹洞宗が隆盛するのは江戸時代になってからであり、幕府から保護された曹洞宗は、武士や商人だけでなく農民や町人にも広く普及したため、曹洞宗は日本最大の仏教宗派となりました。
なお、「只管打坐」や「道元禅師」については、以下の記事にまとめているので、興味のある方は参考にしてください。
黄檗宗の歴史
黄檗宗は、曹洞宗、臨済宗と同じく日本の三大禅宗のひとつ。
江戸時代初期に中国から来日した隠元隆琦(いんげんりゅうき)禅師が開いた宗派です。
当初、隠元禅師は、中国の臨済宗楊岐派の法系を嗣ぎ、正統派の臨済禅を伝えることを目的として「臨済正宗」や「臨済禅宗黄檗派」と名乗っていましたが、明治時代に臨済宗と区別するために「黄檗宗」に変更されました。
隠元禅師は、京都府宇治市に黄檗山萬福寺を建立。この寺院は、中国の明朝様式の建築で、隠元禅師が住職を務めた中国の黄檗山萬福寺に似せて造られ、この寺院が黄檗宗の総本山となりました。
曹洞宗と臨済宗の座禅の違い
曹洞宗と臨済宗は、それぞれ異なる歴史や特徴を持っており、その違いは座禅のスタイルにも表れています。
曹洞宗も臨済宗も、修行法は座禅を重視し、日常生活すべてを修行と捉えていますが、座禅の作法や修行に対する考え方が異なります。
特にわかりやすい違いが、「座る向き」と「修行観」の2つ。
座る向き
曹洞宗と臨済宗の座禅の違いで最もわかりやすいのが、座る向き。曹洞宗では壁に向かって座りますが、臨済宗ではお互いに向き合って座ります。
これは、「黙照禅(もくしょうぜん)」と「看話禅(かんなぜん)」の違いに由来します。「黙照禅」では壁に向かって自分自身と向き合いますが、「看話禅」では他者と向き合って公案(禅問答)を探究します。
修行観の違い
禅宗の修行の目的は、簡単に言うと仏様のように悟りを開くことです。曹洞宗と臨済宗では、悟りを開くための方法が異なってきます。
曹洞宗は、自分の中に仏様の心があると信じて、ひたすら座って自分と向き合うことで、その心を見つけようとします。これを「黙照禅」や「只管打坐」といいます。何も考えないでただ座っていることが悟りである。これが曹洞宗の考えです。
一方、臨済宗は、指導者から出された公案(禅問答)について考え抜くことで、仏様の心を受け継ぎ悟りを開こうとします。これを「看話禅(かんなぜん)」といいます。
どちらも同じ座禅ですが、やり方や考え方が違うから興味深いですよね。
曹洞宗の座禅の特徴
ここまで紹介したとおり、曹洞宗の座禅の特徴は、「黙照禅(もくしょうぜん)」と「只管打坐(しかんたざ)」です。これは、何も考えずにただひたすら坐ることで、本来の自分に気づくことを目指していく座禅。
曹洞宗の座禅は、仏教の教えや公案などに頼らず、自分自身の心を見つめることが重要だと考えます。
そのため、座禅中に何かを考えたり、感情に流されたりすることは避け、心身を統一し、静かで落ち着いた状態を目指します。
しかし、いざ座禅を始めてみると、雑念を払い精神統一するのは難しいもの。そのため座禅の初心者の場合には、呼吸の数を数えて雑念を払う「数息観(すそくかん)」という方法を取り入れるのがおすすめです。
数息観については下記の記事で詳しく解説しています。
臨済宗の座禅の特徴
臨済宗の座禅の特徴は、「看話禅(かんなぜん)」です。これは、「公案」と呼ばれる難解な問題(禅問答)について考えることで、心の迷いを吹き消し、悟りへと至ろうとする座禅の方法です。
臨済宗でも、坐禅は仏教の教えや経典などに頼らず、直接心から心へと仏法を伝えることが重要だと考えます。そのため、座禅中に公案に集中し、一心不乱に答えを探求します。
また、呼吸法や姿勢なども大切ですが、それよりも公案への取り組み方が重視されます。
臨済宗も曹洞宗もどちらも悟りを目指していくのは同じですが、その方法や考え方が違います。
なお、禅問答(公案)については、以下の記事にまとめているので、興味のある方は参考にしてください↓
宗派の違いについてよくある疑問
- 三大禅宗のそれぞれの総本山はどこ?
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三大禅宗のそれぞれの総本山は、臨済宗の建仁寺(京都府)や妙案寺(京都府)、曹洞宗の永平寺(福井県)と總持寺(神奈川県)、黄檗宗の萬福寺(京都府)です。
これらのお寺では、座禅体験ができることも。歴史あるお寺で実際に座禅をすると、より心身に良い効果を感じられるでしょう。
- どの宗派の座禅体験がおすすめ?
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どの宗派の座禅体験がおすすめかは、個人の好みや目的によって異なりますが、一般的には臨済宗や曹洞宗が人気が高いようです。
曹洞宗と臨済宗では座禅の作法や修行観に違いがありますが、まずはあまり宗派にこだわらず、初心者向けの座禅体験に参加してみるのが良いでしょう。
座禅体験の参加方法については、こちらの記事でくわしく紹介しています。
【初心者向け】座禅体験の基本とマナー|おすすめの寺院も紹介 ストレス軽減や仕事の効率化アップなど、その医学的効果が広く認知されはじめている「坐禅(座禅)」。 「心が落ち着き、頭をリフレッシュできる」と、いま座禅体験が注… - 自宅で座禅をする場合、どの宗派の座禅をすればいい?
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どちらの宗派の座禅でも、自宅で行うことができますが、あまり宗派にこだわらずにまずは座ることが大切です。
必要なものは、坐蒲(ざふ)という厚みのある丸いクッション。
臨済宗の座禅では、壁を背にして人と向かい合って座ります。
曹洞宗の座禅では、壁に向かって座ります。
しかし、あまり壁に近い位置で座ってはかえって集中しづらいこともあります。
自宅で座禅をする場合には、静かな集中できる環境を選ぶようにしましょう。
まとめ
この記事では、禅宗の「曹洞宗」「臨済宗」の歴史やそれぞれの違いについて詳しく解説しました。
曹洞宗は、道元禅師が日本に伝えた宗派であり、「只管打坐」という無心で坐る座禅を重視し、自分の中にある仏性を見つめます。
一方、臨済宗は、栄西が開いた宗派で、「看話禅」という公案について考える座禅を重視し、公案という難解な問題に集中します。
どちらも同じ座禅ですが、やり方や考え方が違うから面白いですよね。自分に合った座禅の方法を見つけて、座禅を暮らしに取り入れてみてはいかがでしょうか。