この記事では、座禅の基本的な呼吸法である数息観について解説します。
あなたは、自分の呼吸に意識を向けたことがありますか?
呼吸は、私たちの生命を維持するために欠かせないものですが、意識しなくても自然に行われるため、あまり意識することはないと思います。
しかし、呼吸に意識を向けることで、心身の健康やパフォーマンスを向上させることができます。
その方法のひとつが、座禅の基本的な呼吸法である数息観です。
数息観は、自分の呼吸に意識を向けて数えるだけのシンプルな呼吸法ですが、驚くべき効果があります。
数息観を実践することで、自律神経のバランスが整い、ストレスや不安を軽減するだけでなく、集中力や創造力を高めることができます。また、睡眠の質も向上し、疲労回復や免疫力アップにも効果的です。
この記事を読めば、数息観の効果を知るだけでなく、具体的なやり方や継続するコツを身につけることができます。
ぜひ最後までお読みいただき、座禅と数息観に挑戦してください。
座禅の呼吸法|数息観とは
数息観とは、仏教の瞑想法である五停心観の一つであり、自分の呼吸に集中しながらその数を数えることで、心を静めて三昧の境地に入るための瞑想法です。
数息観のやり方は、「自分の呼吸を数えるだけ」というシンプルなものですが、実際にやってみると、雑念を交えず呼吸を数えることが、とても難しく感じるはずです。
そのため数息観は、「座禅の入り口であると同時に、最も高度なもの」であるとも言われています。
※「五停心観」とは、仏教において心を落ち着ける5種の瞑想方法の総称。「数息観」は5種類のひとつ。
数息観のやり方と注意点
数息観は、呼吸を数えながら心を鎮めるシンプルな呼吸法ですが、始める前に呼吸のやり方や雑念への対処法を学ぶことが大切です。
特に、はじめて数息観を行う場合は、事前に正しいやり方を理解しないと、数息観の効果を十分に感じられないかもしれません。
では、具体的に数息観のやり方はどうなっているのでしょうか?ここでは、数息観の具体的なやり方と注意すべきポイントを解説します。
数息観のやり方
まずは、数息観のやり方について見ていきましょう。具体的なやり方は以下の6つのステップです。
- 背筋を伸ばして姿勢を整えます。座り方は、結跏趺坐でも半跏趺坐でも椅子に座っても構いません。
- 目は、1m先の床をぼんやり見る半眼で行います。
- 数息観に入る前に、ゆっくりと深呼吸を行います。
吐く息は口からゆっくりとコントロールし、吸う息は鼻からしっかりと吸います。この呼吸を数回繰り返して、呼吸が安定するまで続けます。 - 呼吸が安定したら、鼻から吸った息と口から吐いた息を一つの呼吸として、心の中で数えていきます。例えば、「ひとー」で息を吸い、「つー」で吐く。「ふたー」で息を吸い、「つー」で吐くといった具合です。
- 10まで数えたら、また1から始めます。これを繰り返し行います。
以上が数息観のやり方です。続いて数息観を行う際の注意点がこちら。
数息観を行う際の3つの注意点
数息観を行うときには、以下のポイントを押さえておくと良いでしょう。
- 呼吸のリズムは一定
呼吸の早さとしては、1分間に4回から6回くらいのゆっくりした呼吸が理想。
1回の呼吸に10秒程度で行いましょう。
また、呼吸のポイントは吸う時間を短めにすること。人は吐く時間を長くした方が楽に呼吸できるので、10秒のうち4秒で吸って6秒で吐くイメージです。(秒数を数える必要はなくイメージでOK)
- 呼吸数のカウントは、10を超え数えない
10以上の数になると呼吸ではなく、回数に意識が向いてしまうため。 - 雑念が浮かんだら、都度呼吸へ意識を戻す
雑念に関心を持たないことがコツ。
途中で雑念により数を忘れてしまったら、気にしないで1から数え直します。
数息観は、簡単なようで難しいかもしれません。呼吸に一点集中するのは意外に大変です。
しかし、毎日続けることで少しずつ呼吸に集中できるようになります。始めは5分からでもいいので、自分の体調や気分に合わせて継続していきましょう。
数息観の効果
座禅の呼吸法である数息観を継続して行うことで、心身の健康にポジティブな効果をもたらします。
今回は数息観の効果のうち、「ストレス軽減」「集中力アップ」「睡眠の質改善」について解説します。
数息観の効果①|ストレスの軽減
数息観にはさまざまな効果がありますが、最も有名なのがストレスの軽減効果です。
私たちは現代社会で、さまざまなストレスにさらされています。仕事や家庭、人間関係など、日常生活においてストレスを避けることはできません。
そして、これらのストレスや不安は、自律神経という体の調節機能に悪影響を及ぼします。
自律神経とは
自律神経系とは、体の様々な機能を自動的に調整する神経系のことです。
自律神経系は、「アクセルのように活動性を高める交感神経」と「ブレーキのように活動性を落ち着かせる副交感神経」の二つから構成されています。
自律神経系は、内臓や血管などの器官の働きを調整しており、交感神経と副交感神経はそれぞれが反対の効果を持っています。
例えば、交感神経が優位になると、血圧や心拍数が上がり、興奮や緊張の状態になります。一方、副交感神経が優位になると、血圧や心拍数が下がり、リラックスや休息の状態になります。
交感神経と副交感神経はバランスが重要ですが、ストレスが長く続くと、交感神経が過剰に働きすぎることがあります。その結果、不安や緊張、イライラなどのネガティブな感情に支配されたり、睡眠障害や免疫力低下などの心身の健康に問題を引き起こします。
数息観と自律神経系の関係
数息観には、自律神経系の乱れを正常に戻す効果があると言われています。
数息観の深くゆったりとした呼吸を一定のペースで続けることで、副交感神経の働きが高まり、血管が広がって血液の流れがスムーズになり心拍数が落ち着きリラックスできるようになります。
「緊張するときは深呼吸しよう!」というのもこの原理を利用したもの。
さらに、数息観によるストレス低減効果を調べた研究では、数息観は迷走神経(副交感神経の一部)を刺激することで、副交感神経が優位な状態を作り出すことが明らかになっています。
このように数息観によるストレス軽減効果は、科学的観点からも十分な根拠があります。
数息観の効果②|集中力アップ
数息観の効果として、次に挙げられるのが「集中力の向上」です。
数息観を行うことで、脳波に変化が起こり、注意力や認知機能が向上することが科学的に証明されています。
では、なぜ脳波が変化するのでしょうか?その秘密は、呼吸と脳波の関係にあります。
脳波とは
脳波とは、脳の神経細胞が活動する際に発生する電気的な信号のことです。脳波は周波数や振幅によって分類され、一般的にはα(アルファ)波、β(ベータ)波など5種類に分類されます。
脳波は、脳の状態や機能と密接に関係しています。たとえば、α波はリラックスした状態や瞑想状態で多く出現し、ひらめきや集中力を発揮しやすい状態です。
一方、β波はストレスの脳波とも呼ばれており、難しい仕事に取り組んでいる時や、不安やイライラを感じている時、テストなどでプレッシャーを受けている時などに多く出現します。
数息観は、自分の呼吸に集中する座禅の基本的な呼吸法ですが、実践することで脳波に変化が起こることが科学的に証明されています 。
では、なぜ数息観を行うことで脳波が変化するのでしょうか?
数息観と脳波の関係
以下の研究によると、数息観を行うことで、α波が増えてβ波が減ることが示されています。
つまり、数息観は脳をリラックスさせてβ波を減らすとともにα波を増やして、集中力を高める効果があると言えます。
さらに、数息観は言語や思考などを司る脳の機能にも影響を与えます。数息観を行うと、前頭前野という脳の部分が活発に働くようになることがわかっています。
前頭前野は高度な認知処理を担う部分であり、記憶や学習などがそこで行われます。そのため、数息観には認知能力を高める効果も期待できます。
数息観の効果③|睡眠の質の改善
最後は、「睡眠の質の改善」についてです。
睡眠は私たちの健康にとって必要不可欠なものですが、現代社会ではさまざまな要因で睡眠の質が悪化したり、不眠に悩まされたりする人が増えています。
睡眠の質を高めるには、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンおよびその原料となるセロトニンが重要であり、数息観はこれらに良い効果を与えます。
メラトニンとセロトニン
脳内には、神経細胞間で情報をやりとりするためのさまざまな物質があります。これらを神経伝達物質と言い、メラトニンやセロトニンも神経伝達物質の一種です。
そして良質な睡眠には、メラトニン(別名「睡眠ホルモン」)物質が欠かせません。
メラトニンが十分に分泌されると、入眠がスムーズになるとともに睡眠が深くなるため、睡眠の質が向上します。
そして、このメラトニンを生成するための原料となるのがセロトニン。セロトニンは朝起きたときから分泌が始まり、日が沈む夕方まで分泌され続けます。
メラトニンは、日中に作られたセロトニンを材料として生成されるため、日中に適度にセロトニンを分泌することで、夜にメラトニンの生成が促進され、より快適な眠りに着くことができるのです。
つまり、良質な睡眠を得るには、日中に充分な量のセロトニンを作っておくことが大切です。
数息観とセロトニンの関係
セロトニンは、日光や運動などによって分泌されますが、分泌量を増やす方法のひとつとして、リズム運動も効果的です。
リズム運動とは、一定のペースで繰り返し行う運動のことで、ウォーキングやジョギング、サイクリングなどが代表的です。
数息観もリズム運動の一種で、ゆっくりと深い呼吸を一定のリズムで行うことでセロトニンの分泌を促すことができます。
ある研究によると、リズム運動を始めて5分くらいからセロトニン濃度が高まりはじめ、20〜30分でピークに達し、その状態が2時間ほど持続することがわかっています。
ただし、セロトニン神経を強化するには数週間から数か月かかるため、リズム運動は毎日続けることが大切です。
数息観を継続するコツ
ここまで解説したとおり、数息観にはストレス軽減、集中力アップ、睡眠の質改善などさまざまな嬉しい効果が期待できます。
しかし、数息観は一度やっただけでは効果を実感することは難しく、毎日短時間でも継続することが大切です。
そこで、ここでは数息観を継続するためコツを3つ紹介します。これらのコツを理解・実践し数息観を続けていきましょう。
①目標を設定する
まずはじめは「目標設定」についてです。
数息観を継続するためには、自分なりの目標を設定することが大切です。
目標を設定することで、自分の進捗や効果を確認することができますし、やり遂げたときの達成感を感じることができます。
数息観をする前には、「今日は何分する!」と自分に誓ってください。
例えば、最初は1分や5分から始めてみたり、呼吸数を10回×3セットなどとゴールを明確にしてから行うと良いでしょう。
自分に無理のない目標を設定すると、継続しやすくなります。
②数息観を楽しむ
2つ目のコツは、「数息観を楽しむ」ことです。
座禅や数息観を続けるには、楽しみを見つけることも重要です。楽しくないことは、人間はどうしてもやりたくなくなります。
数息観は呼吸を数えるだけではなく、自分の心や体に目を向けることができる貴重な時間です。
例えば、 数息観をしている間に感じた感情や考えを日記に残すのもおすすめです。日記をつけることで、自分の変化や成長を振り返ることができます。
また、数息観を終えた後には自分へのご褒美を用意するのも良いでしょう。好きな音楽を聴いたり、美味しいものを食べたり、好きな人と話したりするなど、何でも構いません。
自分へのご褒美を楽しみにして、数息観に取り組むことで、数息観がより楽しくなりますし、ポジティブな気持ちで続けることができます。
③習慣化する
最後のコツは、「習慣化」についてです。
習慣化とは、数息観を日常生活に組み込むということです。毎日同じ時間や場所で実践するようにしましょう。
例えば、「朝食前」「寝る前」などが分かりやすいですね。 習慣化することで、数息観をすることが当たり前の行動になりますし、忘れることもなくなります。
なお習慣化には、以下3つのポイントがありますので、意識して組みましょう。
- トリガー
トリガーとは、習慣化したい行動を引き起こすきっかけや条件です。例えば、「朝起きたらすぐ」の場合は、「起きる」という行動がトリガーになります。また、「就寝前1時間前」の場合は、「時計を見る」という行動がトリガーです。まずはトリガーを明確にしましょう。 - ルーティン
ルーティンとは、習慣化したい行動そのものです。例えば、「10分間数息観をやる」という行動がルーティンになります。ルーティンは実行可能なものにしましょう。無理をすると継続できなくなります。 - 報酬
報酬とは、習慣化したい行動を行った後に得られる利益や快感です。例えば、「数息観をすると心が落ち着く」という感覚が報酬になりますし、「数息観をすると集中力が高まる」という効果も報酬です。報酬は明確に感じられるものにしましょう。報酬があると、モチベーションが高まります。
これらの要素を組み合わせると、以下のような習慣化の公式ができます。
例えば、「朝起きたらすぐ(トリガー)10分間数息観をやる(ルーティン)と心が落ち着く(報酬)」というプランです。
この公式に沿って、自分の座禅の習慣化プランを作ってみましょう。
まとめ
この記事では、座禅の呼吸法である数息観について、その意味、やり方、注意事項、効果、継続するのコツを解説しました。
数息観は、ストレスを減らし、集中力を高め、睡眠の質を改善するなどの様々なメリットがあり、継続することでその効果はより大きくなっていきます。
座禅と数息観は、誰でも簡単に始められる健康法なので、ぜひこの機会に挑戦してみてください。きっと心と体が喜ぶことでしょう。
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