自分の欲望や執着に振り回されていませんか?もしそうなら、あなたは煩悩の犠牲者になっているかもしれません。
煩悩とは、私たちの心に潜む欲望や執着のことで、仏教では苦しみの根源とされており、私たちの幸せや成長を妨げる大きな障害となります。また、そう簡単に捨て去れないのが煩悩の厄介なところ。
しかし、煩悩は私たちの心の働きによって生まれるものであり、その仕組みを理解すれば、解消する方法も見つかります。
この記事では、煩悩がどのようにして生まれるのか、心理学的な視点も含めてわかりやすく解説します。そして、煩悩を捨て去るためには、どのように考え方や行動を変えるべきなのか、具体例も紹介。
煩悩に悩まされている人の特徴や、煩悩を減らすための習慣なども紹介していますので、自分の状況をチェックしながら、煩悩の解消にぜひお役立てください。
そもそも煩悩って何?
「煩悩」とは、文字通り私たちを煩わせ悩ませるもの、すなわち怒りや後悔、嫉妬、欲望などによって引き起こされる心の苦しみをいいます。
「あいつばっかりチヤホヤされている」といった嫉妬や怒り、「今よりもっとお金が欲しい」といった底なしの欲望、「なんで自分を認めてくれないの」という絶望や落胆、「こんなにして尽くしているのに少しも感謝されない」といった愚痴や高慢。
日常的にありふれたこれらの心の風景は、おおよそ煩悩のなせる業であるといってよいでしょう。あらゆることが自分の思い通りに進むのなら、煩悩など生じず苦しむことはありません。
煩悩は自分の思い通りにならなかった場面で生まれます。引き金になるのは、自己への過度な執着心です。
煩悩が生じるメカニズム
煩悩とは、何も仏教だけの特有な考え方ではありません。煩悩から生じる心の苦しみは、科学の領域である心理学の観点からも数多くのアプローチがなされています。
フロイトが考える心の苦しみとは?
フロイトはユングとともに、心理学の分野に精神分析学の礎を築いた大家です。
フロイトは、人間の心には「意識」と「無意識」という2つの部分があると考えました。意識は人が自覚的に知覚できる部分であり、無意識は自覚的に意識できない部分です。
そして心の苦しみは、欲望や衝動が無意識の中に封じ込められているときに起こるというのがフロイトの見解です。
具体的に言えば、閉じ込められた感情は倫理や道徳に反するものが多く、それを意識に上らせると罪悪感や羞恥心といった心の苦しみが生まれるから、無自覚のうちに無意識に閉じ込めておくのだ、ということになります。
しかしそれでは、いつまでたっても心の苦しみはぬぐえません。そのためにフロイトは、無意識の中に閉じ込められた欲望や衝動を解放して苦しみを解き放つことを治療の柱としました。
ユングが考える心の苦しみとは?
ユングはフロイトの弟子として、意識と無意識の考え方を引き継いで発展させました。
師匠のフロイトと大きく違う点は、フロイトが無意識の欲望や衝動を重視しているのに対して、ユングは意識と無意識のバランスを重視している点です。このバランスが崩れたときに、心の苦しみが生まれると考えたのです。
ユングは、人間には「自己」と呼ばれる統合された人格の中心があり、それは意識と無意識の両方を内包して成熟した個性を形づくっているのだとしています。
しかし、無意識には「影(シャドー)」といって、怒りや憎しみ、嫉妬など表に出られなかったネガティブな感情を持ったもう一人の自分が存在し、これが意識を突き動かして外に出ようとしたときに心の苦しみが生まれるのだと考えたのです。
つまり、フロイトとユングの考え方には少し隔たりがありますが、両者ともに無意識に着眼して心の苦しみの根源を探っており、無意識の領域こそが、煩悩という心の苦しみを発生させる震源地であると結論付けています。
なぜ煩悩が苦しみの原因になるのか?
煩悩は対象を真っすぐに、あるがままに見ることができない視点の歪みから生じます。
きれいなものはきれいなもののまま、汚いものは汚いもののまま、その本来の姿を認めることができれば苦しみは生まれませんが、歪んだものの見方をしてしまうことで、その乖離に苦しむのです。
無意識下に生じるその歪んだものの見方は、心理学的には「認知バイアス」と呼ばれます。バイアスとは「歪み」や「偏り」といった意味です。
公正世界仮説
認知バイアスの一つに、「公正世界仮説」というものがあります。
「良いことをすれば良いことが、悪いことをすれば悪いことがその人の身に返ってくる」という考え方に基づくものですが、バイアスがかかると主客転倒し「悪いことが起こるのは、その人が悪いことをしたせいだ」という誤った結論を導き出すことになるのです。
たとえば、何かの事業が行き詰ったとして、うまくいかないのはやり方がまずかったからかもしれないのに、自分が悪いせいでうまくいかないのだ、と思い込んでしまう誤った考え方にとらわれるのは、この認知バイアスに陥っているというわけです。
ダニングクルーガー効果
「ダニングクルーガー効果」という認知バイアスもあります。これは、知識がない者ほど自分の能力を過大評価して、現実を見誤ってしまう認識の歪みです。
また、これとは真逆の「インポスター症候群」という認知バイアスもあり、この場合は、知識・能力は人一倍あるのに、自分なんて全然ダメだと必要以上に過小評価してしまいます。
こんなに一生懸命やっているのに何で認めてくれないのだと愚痴を言ったり、自分なんていくら頑張ってもたいしたことないとため息をついたりするケースでは、これらのバイアスに陥っているケースが少なくありません。
これらはほんの一例ですが、偏見や先入観などを原因とするこれらの心の苦しみは、人間が無意識のうちに犯してしまう心のバグとして、認知科学や社会心理学の研究対象にもなっているのです。
煩悩に苦しむ人の共通点とは?
煩悩に苦しむ人の共通点を知ることは、自分の心を見つめ直し、煩悩を克服するための第一歩です。
ここでは煩悩に苦しむ人の特徴3つを紹介します。
煩悩に苦しむ人の3つの特徴
人間であれば煩悩が生じてしまうのは避けられませんが、必要以上にその感情にとらわれ、苦しんでしまうタイプの人がいます。そしてそのタイプには、以下の点でいくつかの共通点が見られます。
「べき論」にとらわれている
自分に対しても人に対しても、あらゆる点で「こうするべき」という厳格な基準を設けているタイプです。
日常生活ではルールを守る模範的な人ですが、そこから逸脱すると自己嫌悪に陥ったり、他人に対して激しい怒りを感じてしまったりして辛い気持ちを抱えてしまいます。
人の目を気にする
「こうする」「こうしたい」という自己本位の基準軸が希薄で、「他人はどう思うだろう」というように、一度他人の目を通して自分の在り方を決めるため、「自分」というものがないように感じてその空虚感にさいなまれます。
承認欲求に依存しすぎている
自分の存在意義を、他人からの関心や賞賛の中に求めようする度合いが過度に強いタイプです。
自己満足することが難しく、常に他人の評価を追い求めているため、絶え間のない疲労感を感じてしまいます。
煩悩に苦しめられやすいかチェックしよう
煩悩に苦しむ人の特徴をチェックリストにまとめました。煩悩にとらわれやすいタイプか否か、おおよその傾向がわかりますので一度確認してみてください。
□ 意見をあまり言わない
□ 気持ちを素直に伝えられない
□ 傷つくのが怖い
□ 言い返されると何も言えなくなる
□ うまくいかないのは自分のせいだと思いがち
□ 束縛心が強い
□ 悪いことをしても黙っていれば平気と思う
□ 他人がしくじると気持ちが落ち着く
□ 他人に褒められるとかなりうれしい
□ 自分は素晴らしい才能の持ち主だと思う
□ 人と変わっと事をすると孤立感を感じる
□ 過去の失敗の原因をいつまでも考える
□ 都合があっても頼まれると断れない
□ 常に人の目が気になる
□ 努力しなければ置いて行かれると焦る気持ちがある
□ グループ行動が苦手
□ コミュニケーションをとるのが苦手
□ 不要なものと分かっていても捨てられない
□ 休日は外に出ないことの方が多い
□ 友達でも急に訪ねて来られると不快になる
□ お気に入りは独り占めにしたい
□ 恋人には何よりも自分を最優先にしてほしい
□ 友人が作れない
□ 誰にも触らせたくない宝物がある
□ 超常現象を信じる方だ
あなたはいくつ当てはまりましたか?
チェックが5個以下なら執着心がそれほど認められない人。6~13個はやや執着心が認められる人。14~20個は執着心を抱きやすい人。21個以上は執着心が強く煩悩にさいなまれやすい人です。
煩悩を捨てるための6つの思考法
煩悩を捨てるための6つの思考法を紹介します。
これらの思考法は、自分の心を観察したり、煩悩の根源や影響を理解し対処法を知ることで、煩悩を減らす効果が期待できます。
①完璧主義をやめる
完璧主義の人は、自分にも他人にも、すべての面でパーフェクトを求めます。
「そうだったらいいな」ではなく、「そうでなければならない」という考え方です。「べき論」にとらわれているのです。
完璧でなければ価値がないという判断は、苦しみを生みます。人間、完璧じゃなくて当然です。ありのままの自分を受け入れましょう。
②他人と比較しない
「あの人には遠く及ばない」とか「あの人よりはましだ」とかいった他人との比較は、自分の立ち位置を確かめるのに便利です。
ですが、そこにはどうしても自己を卑下する気持ちや高慢な気持ちなどが生まれ、それが心の苦しみを作り出してしまうのです。
そもそも他人と比較して自分の現在地を知ったところで、何の意味もありません。
他人軸で自分を評価するのではなく、評価の軸はあくまで自分の中に定めること。それが本物の自信を作り上げることにつながります。
③今ある幸せに感謝する
人は誰でも幸せになろうとして生きているものです。
しかし「これが幸せだ」とはっきり心に描ける人は、案外少ないのではないでしょうか。
お金はあっても、もっと欲しいと思う気持ちが生まれます。美味しいものを食べても、もっと美味しいものはないかと探します。
病気になって初めて健康の有難さがわかるというように、自分にとって何が幸せかまず知ること。
もし今その幸せを手にしているのなら、今ある幸せに感謝して満足することこそが、欲望の苦しみを遠ざける最良の方法になるのです。
④自分の欲望や執着に気付く
「こんなにつらいのはあの人のせい」とか、「環境が悪いからうまくいかない」とかいうように、原因を外に求めているうちは心の苦しみから逃れることはできません。
本当の原因は、人を思いのままに動かしたいという自分の欲望であり、失敗を環境のせいにして自分を正当化しようとする心の執着なのです。
煩悩は一気に取り払えるものではなく、まずそこに気付くところに解決の道が開けるもの。
今心が苦しいのであれば、その原因が状況を見る目の歪みではないかと内省してみましょう。
⑤自分の弱さや過ちを受け入れて許す
人間は弱いものです。当然、過ちも犯します。
強くなくてはならないと思い、過ちを犯してはならないと考えるから苦しみが生まれるのです。
弱くて当然、間違って当然。そういう自分を受け入れてあげましょう。
「よく頑張っている」と許してあげてください。
⑥煩悩を捨てることに執着しない
こんなに心を苦しめるのなら、一刻も早く煩悩を捨て去りたいと考えるかもしれません。
しかし、捨て去ろうとしても簡単に捨て去れないのが煩悩というものです。
そこを誤解すると「また煩悩が生まれてきた、だから自分はダメなのだ」などと本末転倒の苦しみを抱え込むことになりかねません。
煩悩を捨てることに執着しないことも、心の平安を得るための大切な心構えになるのです。
なお、これらの思考方法は、禅宗の知恵を簡潔にまとめた「禅語」の中にも数多く見出すことができます。気になる方はぜひ確認してみてください。
煩悩を捨てるための6つの行動
次に煩悩を捨てるための6つの行動を紹介します。
日常生活で実践できるものも多く、煩悩に対する気づきや抑制力を高める効果が期待できます。
①座禅・瞑想を行う
座禅とは、精神を統一して自分と向き合い、瞑想状態の中で煩悩を捨て去って悟りに至ろうとする禅宗の修行法です。
ストレス解消や集中力のアップにもつながるため、近年では一般の人の間でも愛好者を増やしています。
呼吸を数えながら虚心坦懐に自己と向き合う中で、思考の不純物が取り除かれたすがすがしい覚醒感が味わえますので、煩悩にとらわれた気持ちも徐々に解消されていくことが期待できます。
②感情を紙に書き出す
心理学では、鬱屈した感情を紙に書き出して解消しようとする「エクスプレッシブ・ライティング」という治療法が採用されています。
これは、不安や緊張の原因となる抑圧された欲求を言語化してアウトプットすることで、精神の浄化,すなわちカタルシス効果を得ようとする方法です。
苦しみをため込まず、積極的に言葉にすることで煩悩の芽を摘むことが期待できるでしょう。
③SNSと距離を置く
SNSは、誰もが主人公になれる表現ツールとして人気を博していますが、依存しすぎると過度な承認欲求に苦しむことになるので注意が必要です。
なぜなら、そこでは常に幸せな自分を演じていなくてはならず、それほど幸せではない現実とのギャップに空しさを感じるから。また、それだけではなくSNS上で他人の充実した姿を見ると、劣等感を感じて余計に落ち込むといったひとり相撲につながるケースもあります。
そのため、SNSがつらいと感じた場合は、距離を置いてしばらく使わないようにするという決断も必要です。
④継続できる習慣をつくる
どんな小さなことでも構いません。自分でこれをすると決めて、毎日続けるという習慣を持ちましょう。
これは、自分の中に確固とした軸を作るための大切な作業です。
煩悩は、外部との関係が触媒となって生じます。
たとえ外部からネガティブな要因がもたらされても、自分の気持ちをかき乱されることのないよう、自分軸をしっかり打ち立てて自信を持つことが煩悩の芽を遠ざけてくれます。
⑤良質な睡眠
良質な睡眠も煩悩を遠ざけます。逆に眠りの質が悪いと、煩悩を引き寄せてしまいます。
これは仏教の五欲の一つとしても定められており、勤勉さを削ぎ、怠け癖を増長させるものとして厳しく戒められているものなのです。
夜更かしをせずしっかり時間をとって質の高い睡眠を心がけると、生活リズムが整い煩悩が生じにくくなります。
イライラしたり攻撃的だったり、考え方がネガティブに傾いていると感じたりしているのなら、たっぷりと睡眠時間をとるよう心がけてみてください。
⑥プロに相談(カウンセリング)
自分だけではどうしても心の苦しみをコントロールできないと感じたら、カウンセリングのプロに相談してみることも一つの方法です。
プロのカウンセラーは、多くの煩悩事例に通じた専門家ですので、相談内容に応じた的確な寄り添い・助言を行ってくれます。
カウンセリングにはいろいろなアプローチ法がありますが、心の苦しみは対象(自分・他者)への過度な執着心が原因であるという点ではほぼ一致していますので、状況に沿った上手な執着心の手放し方を指南してくれるでしょう。
ただ、「いきなり専門家と一対一になるのはちょっと…」という場合は、事前に煩悩解消の知識を学んでおくという方法もあります。自分の思考の癖を知って、「なるほど」と思えばそのまま自分で学びを深める。
もう少し詳しく知りたいと思えば、その時にはプロに相談する。そのように、その後の選択の幅を広げられるのが自分で学ぶことの大きなメリットです。
たとえば、通信教育などに最適なカリキュラムを組んでいるものもありますので、一つ紹介します。
「ストレスや悩みを解決したい」方におすすめ
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通信教育講座サービス大手のユーキャンでは、日々の暮らしに取り入れられるメンタルトレーニング講座が受講できます。
キャンセル料も無料なので、のぞいてみて自分に合うようであれば、一度プロに相談してみてはいかがでしょうか。
煩煩悩は捨てなくても大丈夫?|煩悩即菩提という考え方
煩悩即菩提(ぼんのうそくぼだい)とは?
「煩悩即菩提」とは、「煩悩そのものが菩提、つまり悟りにつながる」という意味で、浄土真宗の開祖である親鸞が特に重んじた考え方です。
煩悩は本来、悟りとは対極に位置するものです。
しかし親鸞は、「人というものはいかにしても煩悩から逃れられない存在なので、あえてそれを受け入れ、そのうえで阿弥陀仏の教えに救いを得よう」と考えました。
煩悩を排除するのではなく、煩悩とともにある「ありのままの人の心」を認めようとする立場です。
煩悩を成長のエネルギーに変える思考法
「煩悩即菩提」の考え方は、煩悩を悪いものとして決めつけるのではなく、煩悩がもたらす負のエネルギーを正のエネルギーに転化して、明日への成長につなげようというものです。
煩悩があるから悟りの大切さが理解できるわけであり、いってみれば悟りの大切さを教えてくれるダークヒーローが煩悩だという言い方もできるということです。
困難があればそれを克服して乗り越えるところに、また新たな景色が広がります。
その山登りのエネルギーとして、煩悩をとらえようとするのがこのプラス思考。 日常生活でも応用できる、前向きな考え方かもしれませんね。
煩悩を捨てるためにおすすめの書籍3選
煩悩を捨てることは、自分の心を穏やかにし、幸せに生きるための重要なステップです。
ここでは煩悩を捨てるためにおすすめの書籍3選を紹介します。
これらの書籍は、煩悩の正体や種類、そして煩悩を乗り越える方法や実践方法をわかりやすく解説しています。
煩悩に悩む方は、ぜひ読んでみてください。
反応しない練習
自らも仏教僧侶である草薙龍瞬氏が、煩悩の消し方を合理的な視点で、現代人にも腑に落ちるように解説したのが本書です。
煩悩とは何かという初歩的な疑問に分かりやすく答えており、ベストセラーとなっています。
人間の煩悩
本書は、作家の佐藤愛子氏が90歳を過ぎて実感した煩悩の本質を、庶民的な目線で綴っているエッセーです。
「なぜ自分だけがこんな目にあうのか」といった根源的な苦悩を原点として、たどり着いた一つの境地がすがすがしく描かれています。
認知バイアス事典
人の心に苦しみや偏見を生じさせる原因を科学的に解明し、各種の事例を網羅したのが本書です。
國學院大學の教授で、哲学・論理学者である高橋昌一郎氏を所長とする情報文化研究所が編集したもので、煩悩を遠ざけるために必要な「情報を正しく選択するポイント」が興味深く描かれています。
まとめ|煩悩をコントロールして健やかな毎日を!
「生まれ変わってもまた自分になりたいか」という問いがあります。今の自分が嫌だと感じている人でも、潔く「No」と言い切ることには、やはり少し抵抗があるのではないでしょうか。
それは煩悩に苦しむこんな自分でも、何とか救い上げてやれるのではないかと思うもう一人の自分がいるから。自分というかけがえのない存在を、深層心理が懸命に支えようとしているからかもしれませんね。
私たちは、日々数知れないほど多くの煩悩を抱えながら生きています。時に自己嫌悪に陥りながら、時に不運をかこちながら、そして時に他人を恨みながら。
しかし、そんな煩悩の苦しみは決して自分だけのものではありません。仏教も文学も心理学も、多くの先人がその問題を自分ごととして悩み、原因を追究し、克服を試みました。
そして私たちは今、煩悩をコントロールする知恵をこの手にしています。 その知恵の中から、自分なりのアプローチを工夫して、健やかな毎日を過ごしていきたいものですね。