禅宗とは?歴史・教え・宗派の特徴と違いをわかりやすく解説

    禅宗と聞くと、どんなことを連想するでしょうか。
    座禅をするお坊さんや、美しいお寺や庭園などが思い浮かぶかもしれませんね。

    禅宗はもともと中国で確立し、複数の教派が日本に伝播して独自の宗教観を育みました。
    その独創性は、座禅の組み方一つをとってもみても、人と対面して座る禅と、壁に向かって座る禅という方法の違いなどを生んでいます。

    さらに禅宗は、宗教という一面だけで語りきれない大きな影響を、文化や芸術などの多方面で与えており、その奥深い歴史や文化などを知れば知るほどますます興味をかき立てられます。

    この記事では、そんな禅宗の理解に欠かせないポイントをなるべく詳しくそして理解しやすい表現で紹介しています
    禅宗のこと、知っているつもりだったけれど実はよくわかっていなかったという人も、ぜひこの記事を読んでそのモヤモヤ感を解消してください。

    タップでとべる目次

    禅宗とは?

    禅宗とは?

    禅宗は仏教の一宗派であり、座禅を修行の中心に据える教派を総称して禅宗と呼んでいます日本では、曹洞宗・臨済宗・黄檗宗がその教派にあたります。つまりこの3宗の総称が禅宗であり、禅宗という単独の宗派はありません。

    仏教には数多くの宗派がありますが、経典などに書かれた文字に頼るのではなく、座禅を中心とした行動を通じて悟りを得ようとするのが禅宗の立場。 仏教を開いた古代インドの釈迦は、座り続ける修行を通して禅の境地に至ったとされていますが、禅宗が重視している座禅こそ、まさにその修行方法なのです。

    禅宗の教えとその特徴

    禅宗とは、禅を重んじる宗派です。

    では、禅とはいったいどのようなものなのでしょうか。

    禅とは、もともと仏教用語の「禅那(ぜんな)」に由来するもので、精神を統一して心が静かに落ち着いている瞑想状態のことをいいます。

    ところで仏教には、仏道を究めようとするものが必ず修めなくてはならない3つの基本要素「三学」があります。

    それが「戒学(かいがく)」「定学(じょうがく)」「慧学(えがく)」です。

    戒学は悪をおしとどめ善を修めること、定学は精神を統一して雑念を払うこと、慧学は正しく真実を見究めることをいい、いずれも釈迦がじきじきに修養の必要性を説いた修行の柱なのです。

    「禅(禅那)」はまさしく定学にあたります

    そして、修行をするうえで特にこの定学を重視し、瞑想の中にこそ真理を得なくてはならないとしたのが、まさに禅宗の教えであるというわけです。

    禅宗は言葉では真理は得られないと考え、文字による教えに重きを置きません

    その特徴を端的に表している言葉が「以心伝心」です

    心から心へと真実を伝えること、それは座禅という体験の中で修得してこそ初めて可能になるもので、文字では伝えられない教えの極意であるといっているのです。

    禅宗の修行法

    禅宗の修行は、座禅を中心に行われます精神を統一して心を無にし、自分と向き合うことが目的です。

    また、禅宗では日常生活を修行の場として、掃除や料理などの労働に無の心で励む「作務(さむ)」を重視します。生活のあらゆる行為は真理を悟るための修行であり、あるがままの姿を受け入れるための訓練だとする考え方です。

    さらに「公案」と呼ばれる課題を解くことで自己と向き合う修行方法もあります

    師から与えられる公案(禅問答)は、論理的に考えても答えの出ない難問ですが、公案を解こうとすることで、心の奥底に眠っている真実に気づき、悟りの境地に近づくことを目指します。

    なお、公案(禅問答)については、以下の記事で詳しく解説しているので、禅問答に興味がある方は参考にしてください↓

    禅宗のお経

    禅宗では、「般若心経」や「四弘誓願文」といった経を読むことがありますが、基本的に拠り所としての経典そのものは定めていません。

    禅宗は、座禅などの行動によって悟りを開くことを目指す宗派ですので、経典や文字による教えには頼らないという立場です

    そのため、他の宗派のように経典を特定する必要がないのです。

    禅宗と浄土真宗の違い

    禅宗と他の仏教宗派との大きな違いは、経典などの文字による教えではなく、座禅などの行動の中に真実を見究めようとする点です。

    そのため、禅宗では経典を定めていません。一方、その他の宗派では、いずれも特定の経典を定めています。

    たとえば、日本で最も信者が多いとされる浄土真宗では、「仏説無量寿経」「仏説観無量寿経」「仏説阿弥陀経」の総称である「浄土三部経」を経典としています。

    浄土真宗は、自力を捨て去り、他力によって絶対的な幸福をつかめという「他力本願」の教えを主眼としており、これは救いを自分の外に求める考え方です。

    一方で、禅宗は座禅によって自分と向き合い、迷いを切り捨てて己の中にある仏性に気づくことを求めますので、あくまでも真理は自分のうちにあります。

    浄土真宗は真理を外に求め、禅宗は自己のうちに求める

    その点にも両者の大きな違いが見てとれます。

    禅宗の歴史

    日本に禅宗が伝わるまでの流れ

    禅宗の起源:インドで始まった禅の伝統

    禅の歴史は、紀元前5世紀の古代インドで仏教を開いた釈迦の悟りを起源とします

    29歳で出家して数々の苦行を経たのち、菩提樹の下で悟りを開いたのが35歳の時であったと伝えられています。

    釈迦が真理に目覚めたとき、菩提樹の下で行っていたのは座禅による瞑想でした。これが禅の伝統の始まりとなったのです。

    禅宗の中国への伝来:五家七宗

    五家七宗

    禅をインドから中国に伝えたのは達磨大師です。釈迦から数えて28代目の仏法継承者ですが、520年頃、南インドから海路はるばる中国に渡ったと伝えられています。

    達磨大師は洛陽の東にある少林寺で修行を重ね、中国全土に禅の思想を広めて、その教えは次第に仏教界の主流の座を獲得していきました。

    禅の思想が、禅宗という宗教形態として定着した背景には、日常の労働の中に修行の場を見出す作務の考え方が民衆に広く受け入れられたことがあります。

    さらには、当時中国で勢力を得ていた「老荘思想」の影響も見逃せません。老荘の「無為自然(作為を捨てて自然に従う)」という考え方が、心を空にして修行に励む禅の思想と違和感なくマッチした結果でもありました。

    中国での禅宗は、このように達磨大師を開祖としてスタートしたのです

    そして達磨から下ること6代目、禅宗が中国で全盛期を迎えたのは慧能禅師の時代から彼とその弟子の馬祖道一が実質的な禅宗の確立者だとされています。

    中でも、最も発展した7つの宗派は五家七宗(臨済宗・潙仰宗・雲門宗・曹洞宗・法眼宗・黄龍派・楊岐派)と呼ばれ、現在にその系譜をつないでいるものもあります。

    禅宗の日本への伝播:鎌倉・室町時代に栄えた臨済宗・曹洞宗・黄檗宗

    日本に本格的な禅宗が伝えられたのは、鎌倉初期の時代にあたる12世紀初めです。

    臨済宗・曹洞宗・黄檗宗の3宗が日本の禅宗教派があることはすでに述べましたね。

    このうち臨済宗を開いた栄西が、中国で禅を修めその証である印可を受けて帰国した1191年こそ、まさに禅宗伝来の年なのです。

    その後、曹洞宗を開いた道元も印可を授かり帰国すると、積極的に禅宗の布教を開始。

    臨済・曹洞の両派は自己の鍛錬を重んじる質実剛健な武家の気風に合致したことで幕府の庇護を受け、民衆にも支持されて各地に禅寺も建てられるようになりました。

    各地に散らばった禅僧は、布教だけでなく禅風文化の浸透にも努め、これが今に伝わる日本固有の芸術文化の礎にもなったのです。 江戸時代になると、日本から招かれた中国の隠元禅師が黄檗宗を開き、仏法とともに普茶料理といわれる精進料理の文化なども広めました。

    禅宗の国際化:日本から世界へ広まり多様化した禅

    日本に伝えられ、日本固有の文化的要素も交えながら進化した禅の教えは、世界中の文化人にも多大な影響をもたらしています。

    その立役者が、仏教哲学者の鈴木大拙(1870〜1966)博士です。

    その代表的な著書である「禅と日本文化」は、外国に向けた禅の入門書であるとともに、日本文化を理解するうえでの案内書としても高い評価を受け、文化としての禅は「ZEN」としてグローバルな視点で認知されるようになりました

    小説家のサリンジャーや前衛作曲家のジョン・ケージ、実業家のスティーブ・ジョブズなど、名だたる著名人がその影響を受けたと公言していることでも知られます。

    禅宗の宗派(臨済宗・曹洞宗・黄檗宗)の特徴と違い

    臨済宗:公案(禅問答)を用いて悟りを目指す禅

    臨済宗とは?その歴史と開祖栄西について

    臨済宗は、中国の五家七宗である黄龍派に連なる禅宗宗派の一つです。

    開祖の栄西は、47歳の時に中国に渡り、5年にわたる修行後に印可を受けて帰国、九州博多に聖福寺を開いて布教に努めます

    栄西はもともと天台宗を修める僧で、布教の趣旨もその再興にありましたが、天台宗側は新興宗派を嫌い、朝廷に圧力をかけ民衆に向けた布教を妨害させました。

    栄西はやむなく布教の対象を武士に絞って幕府のひざ元である鎌倉で布教、禅の教義が質実剛健を重んじる武士の間で支持され、幕府の庇護を得ると京都の建仁寺に禅寺を建立して本格的に教えを広めるようになったのです。

    臨済宗が重視する公案(禅問答)とは?

    臨済宗では、座禅とともに公案と呼ばれる課題を解くことで悟りに近づく修行を取り入れています

    公案とは、一言でいえば禅問答をまとめた修行僧の教科書であり、禅問答とは、禅の修行者が悟りを開くのを助けるために、指導者が弟子と交わす対話のことをさします。

    禅問答は、頭で考えても答えが出ない難問で、分別ではなく体験することによってこそ禅の奥義が得られるのだと教えます。その体験こそが座禅であり、公案によって悟りに近づくこの修行方法は看話禅(かんなぜん)」と呼ばれて、臨済宗の特徴の一つにもなっているのです。

    なお、公案(禅問答)については、以下の記事で詳しく解説しているので、禅問答に興味がある方は参考にしてください↓

    臨済宗の総本山と有名な寺

    臨済宗は栄西によって日本に伝えられて以降、時の権力者の庇護を受けて各地に拠点を設けて発展していきました。

    各拠点は、臨済宗の中でグループ化され、現在は15派にわかれて本山を置いています。そのため、臨済宗自体には総本山はなく15派の本山がエリアの中心としてそれぞれのグループをまとめるようになりました。

    さらに、臨済宗では本山のほかに、京都五山・鎌倉五山を設置して寺の格付けを行っています。

    この格付けは、自ら行ったというよりはむしろ、時の権力者によって行われたものであり、幕府が格付けの任命権を持つことによって、臨済宗の勢力巨大化をコントロールしようとする意図に基づくものです。

    その結果、本山と五山には以下のように重複する寺院もあり、とりわけ名高い名刹(有名な寺)として知られるようにもなっています。

    本山と京都五山が重複した古刹…天龍寺相国寺建仁寺東福寺

    本山と鎌倉五山が重複した古刹…建長寺円覚寺

    曹洞宗:座禅そのものが悟りであるとする道元の禅

    曹洞宗とは?その歴史と開祖道元について

    曹洞宗は、洞山良价を開祖とする中国五家七宗・曹洞宗に連なる禅宗宗派の一つです。

    開祖の道元は、14歳で出家して天台宗を修めますが、後に栄西の高弟である明全和尚に師事、禅宗の教えを学ぶようになります

    さらに禅を究めたいと24歳で中国に渡り5年の修行を終えて帰国、34歳で京都に興聖寺を開いて座禅の布教を始めます

    しかし、栄西のときと同様に、新興宗派を快く思わない守旧勢力によって妨害を受け、やむなく興聖寺を離れて福井に移り、大仏寺(後の永平寺)を建立して以後の拠点としました。 この間、時の執権、北条時頼に招かれて鎌倉に下り、禅の教えを武士の間に広めた時期もありますが、その教えは特に地方の豪族や民衆の間で支持を広げていきました。

    曹洞宗が重視する只管打坐とは?

    曹洞宗では、一心に、ただひたすらに座り続けることを禅の本質としています

    これが「只管打座(しかんだざ)」と呼ばれる曹洞宗の禅風です。

    「只管」とは「ひたすら、一心に」という意味、「打坐」が「坐禅する」という意味を表す言葉です。

    臨済宗では、公案の答えを解いて悟りを得る「看話禅」を取り入れていますが、曹洞宗では公案は取り入れず、ひたすら無になって座禅することに励みます。

    これが只管打座であり、看話禅に対して黙照禅と言われることもあります。

    なお、「只管打坐」については、以下の記事で詳しく解説しているので、曹洞宗の座禅観に興味がある方は参考にしてください↓

    曹洞宗の総本山と有名なお寺

    永平寺(福井県)

    曹洞宗では、開宗の地を総本山とは言わず大本山と称しますが、実はその大本山も一つではありません。

    福井県の「永平寺」と神奈川県の「總持寺」。この二つが曹洞宗の大本山です。

    曹洞宗は道元によって開かれ、道元の没後15年後に生誕した瑩山(けいざん)によって完成されました。そのため、この二人を宗派の両祖として、永平寺は道元、總持寺は瑩山ゆかりの大本山と定めたというわけです。

    總持寺は、もともと石川県輪島市にありましたが、明治時代に火事で焼失し、その後横浜に移転されました。 曹洞宗の名刹としては、永平寺や總持寺のほか、伊豆の修善寺、鎌倉の大船観音寺、関東の三大寺刹である大中寺(栃木県栃木市)、總寧寺(千葉県市川市)、龍穏寺(埼玉県入間郡越生町)などが有名です。

    黄檗宗:明代中国から伝わった新しい禅

    黄檗宗とは?その歴史と開祖隠元について

    黄檗宗は1661年、中国臨済宗の隠元禅師が京都の宇治に開いた禅宗の宗派です

    開祖の隠元禅師は、明の時代の人で臨済宗の高僧として知られていましたが、禅宗が低迷していることに危機感を抱いた日本の寺院からの度重なる招きに応じて来日を果たしました。

    隠元禅師は1592年に中国福建省で生まれ、29歳で地元の黄檗山萬福寺で出家して禅の修行を積み、ついには臨済正伝32世を受け継ぐまでに至ります。

    臨済宗の重鎮として長らく萬福寺で住職を務めていましたが、要請に応じてついに来日を決意したときは63歳、江戸幕府から寺領約10万坪を与えられ、明朝様式の寺院を建立して故郷の地と同じく萬福寺と名付けました。

    黄檗宗の伝統はここから始まります。

    黄檗宗が重視する禅風とは?

    隠元禅師は、臨済宗の流れを汲んで、公案を取り入れた看話禅を推し進めました。

    しかし栄西の時代の臨済宗とは大きく違う点が一つあります。それは、禅に念仏を融合させたことです。

    念仏は、阿弥陀仏の名号を唱えることで極楽浄土に往生することを目指すものですが、隠元禅師はこれを禅に取り入れました。禅によって悟りを得ることと念仏を唱えて極楽往生することを同時に目指すという教えに大きな特徴があります。

    黄檗宗の総本山と有名なお寺

    黄檗宗の総本山は、京都宇治市にある萬福寺です。

    大陸的な明朝様式が特徴で、日本の一般的な寺院づくりとは異なるデザインや技法が駆使されている点に特徴が見られます。

    黄檗宗の代表的な名刹(有名なお寺)としては、萬福寺のほかにも長崎四福寺と称される興福寺崇福寺福済寺聖福寺、広寿山名で知られる北九州市の福聚寺、高崎だるまでおなじみの達磨寺などがあります。

    禅宗の教え

    坐禅とは?やり方・効果を紹介

    「坐禅」と「座禅」の違い

    ここまで、禅や禅宗に関する基本的な知識を確認してきました。ここからは実際に、「坐禅」のやり方を見ていきましょう。

    その前に少し回り道。

    「坐禅」という漢字の使い方についてです。この記事では、これまでずっと「座禅」という表記で統一してきました。にもかかわらずなぜここは「坐禅」なのか、不思議に感じるかもしれませんね。

    実は、両者には使い分けがあります。すなわち「座禅」の「座」は座る場所を、「坐禅」の「坐」は座る行為を表しているという違いです。

    「广(まだれ)」はそもそも屋内を示す部首ですから、座禅は禅を行う場所に比重が置かれます。

    一方で「坐禅」は、禅を組む動作を重視しており、場所に関わらず、どこでも修行に取り組もうとする修行者の覚悟がうかがえます。そのため、禅宗の修行では「坐禅」を使うのがふさわしく、本来の教義にかなっている表記です。

    しかし、「坐」は常用漢字として認められていませんので、一般的には「座」で代用されているというわけです。

    この章では、禅の修行のやり方という動作を尊重して、「坐禅」の表記を使っていきましょう。

    坐禅のやり方

    坐禅を組む際は、心を無にして何も考えず精神を統一することが大切です。

    とはいえ、考えないようにしようと思えば思うほど、雑念はあれこれと浮かんでくるもの。そのような思念を断ち切り、すんなりと瞑想状態に入っていくために重んじられているのが「調身・調息・調心」という基本動作です。

    調身とは、正しい姿勢で座ること。作法に則って手足を組み、背筋を伸ばし、あぐらをかいて座ります。

    調息とは、呼吸を整えること。口を閉じ鼻で息をしながら、心の中で静かに数を数えます。これは「数息観」と呼ばれる禅の呼吸方法です。

    調心とは、呼吸に心を集中させること。正しい姿勢で呼吸を数えるうちに、気持ちが次第に落ち着いてきます。

    とはいえ、雑念を完全に消し去ることはなかなかできないものです。そんなときでも、呼吸に意識を戻して気持ちを集中させていき、雑念が浮かべばまた呼吸に意識を戻します

    調身・調息・調心のどれか一つでも乱れると、坐禅はうまくいきません。

    でも心配は無用です。最初は難しいかもしれませんが、繰り返し何度も行う中で、次第に体得していくことができるのです。

    なお、「数息観」と「坐禅の組み方」については、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてください↓

    坐禅の効果

    坐禅を習慣にすることができれば、心身に大きな効果をもたらします。

    その一つが、科学的にも裏付けられた自律神経の調整作用です。

    坐禅による呼吸は、セロトニンという神経伝達物質の分泌を促しますが、これは幸せホルモンとも呼ばれているもので、高ぶった気持を鎮め、心を落ち着かせる効果を発揮することが知られています。

    自律神経が整えば、ストレスの解消や集中力アップなどの効果が期待でき、気持ちも前向きになるでしょう。

    また、坐禅を組んで正しい姿勢を日々の習慣にすれば、肩こりや腰痛の解消にもつながります。このように、坐禅には毎日の暮らしを充実させるうれしい効果が期待できるのです。

    なお、坐禅の効果については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください↓

    禅宗の思想:「四聖句」とは何か?

    「四聖句」とは、達磨大師が示した禅の本質を表す4つの言葉をいいます

    すなわち「不立文字(ふりゅうもんじ)」・「教外別伝(きょうげべつでん)」・「直指人心(じきしにんしん)」・「見性成仏(けんしょうじょうぶつ)」がそれです。

    禅とは、言葉のうちに真実を見ず、行いの中に悟りを得ることを重視する思想であることはすでに述べましたが、この4つの言葉はすべてその精髄を説いたものです。

    四聖句とは
    • 不立文字は、悟りとは文字で示すことができないものであるということ
    • 教外別伝は、経典などでは伝えられない真実を、禅という行為の中に自ら気づくこと
    • 直指人心は、自分の心の奥を直視して、仏性に直に触れること
    • 見性成仏は、自分の心にある仏性を見究めて、その仏性と一体となること

    この4つの言葉を常に念頭に置いて、日々禅の修行に励めといっているのですね。

    禅宗の言葉:「禅語」とは何か?

    禅語とは、禅の悟りに至る大切なポイントを短いフレーズに凝縮して伝えた言葉です

    たとえば、カレンダーなどでも普段よく目にする「日々是好日」。「にちにちこれこうじつ」と読みますが、これも禅語です。

    言葉をそのまま受け取れば「毎日が良い日」となるでしょうか。何だか心が励まされて、明るくなるような気持ちがしますね。

    もともとこの言葉は、中国・唐の時代の禅僧、雲門文偃(うんもんぶんえん)禅師が残したもので、「良い日とか悪い日とか、分別にとらわれて心が惑うと真実にたどり着けない。良いも悪いもない、全てを受け入れて今日を良い日と感じるのが禅の心だ」というのが本来の意味です。

    日々の出来事に気持ちが乱されがちな現代人にとっては、教訓になりそうな言葉ですね。

    このように禅語は、日々の行為を戒め、また励ます言葉として、日常生活の中にもしっかりと根付いているのです。

    なお、「禅語」については、以下の記事で詳しく解説しているので、興味がある方は参考にしてください↓

    禅宗が生んだ日本の伝統文化

    【美術】水墨画、書道

    禅宗は、日本文化にも大きな影響を与えた宗派であり、その影響は水墨画や書道などの芸術にも表れています。

    禅宗の思想では、無駄なものを排除して本質をとらえようとしますが、この考え方は、水墨画の簡素な表現にも通じるものがあります。

    さらに、文字にとらわれず心の真実を明らかにする重要性を唱えた禅宗の考え方は、書道にも影響を与え、簡素で力強い筆致を生むことにもなりました。 代表的な作品には、雪舟の「釈迦・十六羅漢図」や黙庵「布袋図」といった水墨画、道元の「無字庵額」や一休宗純の「一休禅師墨蹟」といった書があります。

    【芸術】茶道、華道、園芸

    茶禅一味という言葉があるように、茶道と禅宗は深いつながりを持っています。

    禅の求める無の境地は、侘びさびを重んじる「わび茶」の思想に結び付き、千利休によって大成されました。

    仏に花を捧げる供花の作法に端を発した華道も、仏教と強いつながりがありました。

    禅宗の思想では自然をありのままに見ようとしますが、その精神は華道にも通じ、心を研ぎ澄まして花を生ける精神にもつながって、池坊流などの大家が生まれました。

    また、盆栽などの園芸にも禅宗の影響は見られます。

    自分を世界と一体化させて無我の境地を目指す禅の考え方が、一本の木で景色全体・世界全体を表そうとする盆栽の、その限定された空間の美と感応したのです。

    【建築】庭園、石庭、書院造、数寄屋造

    深山幽谷がふさわしい禅の修行場を、庭の中に再現しようとしたのが禅宗寺院に見られる枯山水などの庭園です。

    石や砂、水や植物を組み合わせた抽象的な表現の中に、内省と精神の安定を追求する場を再現しようとするこの庭園づくりは、日本の庭園文化に息づく一つの型となりました。

    石亭は、禅宗の寺院に見られる石造りの茶室です。

    禅の修行や茶の湯の儀式などに使用されており、禅の精神を具現化する象徴とも捉えられています。 簡素で格式の高い書院造や、格式張らず茶をたてたり生け花を生けたりすることができる数寄屋づくりなども、無駄をそぎ落とすことに重きを置いた禅宗の考え方が生きています。

    【食事】精進料理、お茶、お菓子

    外からお客様が来たときに、自然とお茶を出す風習がありますが、これは「茶礼(されい)」といわれる禅宗の作法に基づくものです。

    お菓子も「主菓子(おもがし)」といって、禅宗とかかわりの深い茶の湯の席でのもてなしの一つ。

    殺生を禁じる仏の教えに基づいて、魚類や肉類を用いない精進料理はおなじみですが、黄檗宗の開祖、隠元禅師によって伝えられえた普茶料理は、和気あいあいと食事を楽しむことを推奨し、美味しさも一緒に追究している点が特徴です。

    隠元禅師は、この普茶料理だけでなく、インゲン豆やスイカ、レンコン、木魚といった今では当たり前に目にする品々を日本に初めて持ち込んだ人としてもお馴染みですね。

    【服飾】袈裟、頭巾、草履

    実際より程度がはなはだしく大きなことを「大げさ」といいますが、これは「大きな袈裟」というのが語源で、臨済宗の僧侶が身に付けていた大衣に由来する言葉です。

    また、帽子代わり頭にかぶる頭巾がありますが、あれは「ときん」と読んで、もともとは禅宗の僧侶の寒さ除けでした。

    曹洞宗では、日常的な作業にも禅を取り入れますが、外作業のしやすさという点で草履が重宝されました。この習慣は民衆に広まり、草履は一般的な履物として定着していきました。

    日本人が身に付ける伝統的な服飾アイテムにも、禅宗にルーツを持つものが多いというわけなのです。

    【芸道】能楽、俳諧、連歌

    俳聖と呼ばれた俳人、松尾芭蕉は、「笈の小文」の冒頭で「西行の和歌に於ける、宗祇の連歌に於ける、雪舟の絵に於ける、利休が茶に於ける其の貫道する物は一なり」と風雅の道を記しました。

    道は別でも根底はすべて同じだ、と言っているのですね。

    その根底こそが禅の侘び・さびに他なりません。

    禅風は、幽玄の美を重んじる当時の芸術文化の主潮となっており、能楽や俳諧、連歌といった主要な芸術ジャンルの精神的な柱として貴ばれました。

    【美学】侘び寂び・無常観・自然観

    日本独自の美意識として、現在に至るまで日本人の心の中に連綿と引き継がれているのが「侘び・さび」の感受性です。

    侘びとは、落ち着いた質素な趣をさす言葉。

    さびとは、渋く枯れた趣をさす言葉。

    もともと、平安時代のころにはすでに用いられていた文芸思潮ではありますが、強く意識され始めたのは鎌倉時代、禅の思想が生活の中に入ってきた頃からです。

    禅によって顕在化された侘び・さびの感受性は、自然を支配しようとはせず、あるがままのその姿を活かそうという自然観や、一切のものは生滅し変化するという無常観と結びついて、日本人のDNAの中に深く刻み込まれました。

    日本文化の美学は、このように禅の思想によって培われている部分が非常に大きいのですね。

    禅宗にについてもっと知りたい方へのおすすめの書籍

    この記事を読んで、さらに詳しく禅宗に触れてみたいと感じた方のために、初心者用から上級者用まで幅広く参考書籍をご紹介します。

    初心者向け

    禅とは何か(著:鈴木大拙)

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    禅宗の入門書として定番の書籍です。禅宗の歴史や教義、修行方法などがわかりやすく解説されています。

    禅マインドビギナーズ・マインド(著:鈴木俊隆)

    禅宗の修行法を、現代的な視点から解説した書籍です。

    座禅や公案などの修行を、具体的に学ぶことができます。スティーブ・ジョブズの愛読書としても知られます

    中級者向け

    歩々清風 科学する茶禅の人(著:堀内宗心)

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    禅宗から生まれた茶道の世界を通じて、無我の境地をわかりやすく解説しています。

    臨済録(著:臨済義玄)

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    中国・唐の禅僧、臨済義玄の禅宗の公案集です。黎明期の公案を通じて、禅の奥義に迫ることができます。

    上級者向け

    中国禅宗史(著:小川隆)

    禅宗の歴史を学術的に解説した書籍です。禅宗の成立や発展を詳しく理解することができます。

    無門関

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    無門関とは、臨済宗の公案集として有名な書籍です。

    臨済宗の禅師たちの48の公案が収録されており、禅宗の思想や修行法について深く学ぶことができます。

    無門関を読む(著:秋月 龍ミン)

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    「無門関を読む」は、公案を易から難への順に並べ替え、より深い理解ができるよう現代語訳とともに解説した書籍です。

    著者の体験も交え、禅の教えが生きる上でどう役立つかなど、「無門関」とは別の視点から禅の教えに触れることができる本です。

    まとめ

    一日の終わりに深く深呼吸をすると、スーと心が落ち着くような気がします。

    ほんのしばらくの間でも、呼吸に意識を集中させてみると、その日あった良いことも悪いことも少し遠くに感じられるから不思議です。我知らず、禅の行いをしているのかもしれませんね。

    禅宗にはいろいろな教派がありますが、いずれの教派も座禅を通して追究するのは真の自分に出会うこと。禅宗とはどのようなものかが掴めたところで、興味のある分野をさらに深堀してみることも楽しいでしょう。

    衣食住の分野にわたり、禅は私たちの生活の中にも深く根付いている思想です。決して特別なものではありません。心豊かに静かで落ち着いた毎日を過ごすためにも、禅の世界、もっと身近に感じてみてはいかがでしょうか。

    最後に、禅宗が最も重視している「座禅」については、以下の記事に詳しくまとめているので、こちらの記事もぜひ参考にしてください↓

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